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『切りとれ、あの祈る手を <本>と<革命>をめぐる五つの夜話』佐々木中

 2016年。16冊目。

切りとれ、あの祈る手を---〈本〉と〈革命〉をめぐる五つの夜話

切りとれ、あの祈る手を---〈本〉と〈革命〉をめぐる五つの夜話

 

 

 次の5つの章に分かれています。

 

第一夜「文学の勝利」

第二夜「ルター、文学者ゆえに革命家」

第三夜「読め、母なる文盲の孤児よームハンマドハディージャの革命」

第四夜「われわれには見えるー中世解釈者革命を超えて」

第五夜「そして三八〇万年の永遠」

 

第二夜と第三夜では、革命における「文学」の先行性について書かれています。革命のはじまりは、暴力ではなく「文学」から始まっているのです。信者の行動のみが目に入る時には、この「文学」の先行性はかなり見落とされているはずです。

 

最も印象に残ったのは、次の部分です。

 

これが、ニーチェ自身が言う「未来の文献学」ということです。いつかこの世界に変革をもたらす人間がやって来るだろう。その人間にも迷いの夜があろう。その夜に、ふと開いた本の一行に微かな助けによって、変革が可能になるかもしれない。ならば、我々がやっていることは無意味ではないのだ。絶対に無意味ではない。その極小の、しかしゼロには絶対にならない可能性に賭け続けること。それがわれわれ文献学者の誇りであり、戦いである、と。 (p.206)

 

変革者ほど大きなことを成し遂げようとしている人ではなくても、落ち込んでいる時にふと目にした言葉で救われたことがある人は多いはずです。それが「書かれた」言葉であり、「読める」言葉であるのならば、その言葉は時代を遥かに超えていくのです。

 

佐々木中氏の「文学」への信頼と、彼自身の書かざるを得ない欲求があいまって、内容云々ではなく言葉そのものから思いを受け取るような読書体験でした。