『切りとれ、あの祈る手を <本>と<革命>をめぐる五つの夜話』佐々木中
2016年。16冊目。
切りとれ、あの祈る手を---〈本〉と〈革命〉をめぐる五つの夜話
- 作者: 佐々木中
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2010/10/21
- メディア: 単行本
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次の5つの章に分かれています。
第一夜「文学の勝利」
第二夜「ルター、文学者ゆえに革命家」
第三夜「読め、母なる文盲の孤児よームハンマドとハディージャの革命」
第四夜「われわれには見えるー中世解釈者革命を超えて」
第五夜「そして三八〇万年の永遠」
第二夜と第三夜では、革命における「文学」の先行性について書かれています。革命のはじまりは、暴力ではなく「文学」から始まっているのです。信者の行動のみが目に入る時には、この「文学」の先行性はかなり見落とされているはずです。
最も印象に残ったのは、次の部分です。
これが、ニーチェ自身が言う「未来の文献学」ということです。いつかこの世界に変革をもたらす人間がやって来るだろう。その人間にも迷いの夜があろう。その夜に、ふと開いた本の一行に微かな助けによって、変革が可能になるかもしれない。ならば、我々がやっていることは無意味ではないのだ。絶対に無意味ではない。その極小の、しかしゼロには絶対にならない可能性に賭け続けること。それがわれわれ文献学者の誇りであり、戦いである、と。 (p.206)
変革者ほど大きなことを成し遂げようとしている人ではなくても、落ち込んでいる時にふと目にした言葉で救われたことがある人は多いはずです。それが「書かれた」言葉であり、「読める」言葉であるのならば、その言葉は時代を遥かに超えていくのです。
佐々木中氏の「文学」への信頼と、彼自身の書かざるを得ない欲求があいまって、内容云々ではなく言葉そのものから思いを受け取るような読書体験でした。
『リーダー論』高橋みなみ(AKB48)
2016年。5冊目。
リーダー論についての本ですが、私にとっては「努力」についての本でした。
「『努力は必ず報われる』と、私、高橋みなみは、人生を持って証明します。」
これは、高橋みなみさんの2011年の総選挙のスピーチの中での言葉です。以後も総選挙のスピーチなどでこの言葉を言い続けています。「努力は必ず報われる」わけではないことを理解していながら、それでもこの言葉を発することのできるたかみなさんは、本当に強い人だな、と感じます。なぜなら、この言葉は、この言葉を発した人を、努力をせざるを得ない状況に追い込むからです。それだけ勇気がないと発することはできません。私自身は、「努力は必ず報われる」と信じています。ただ、信じているだけで実行できるかどうかは、別です。信じていても努力しなければ、この言葉は何の意味も持ちません。ここでは、高橋さんの言葉を引用しつつ、私の「努力」についての考えも書いていけたらと思います。
10年活動してきた今、確信していることがあります。
私のような凡人が認められるには、頑張るしかない。
近道なんてないんです。時間をかけて、ゆっくりと一歩ずつ、自分の道を踏みしめていくしかない。(p.8)
努力の項目がない式はない、という事実です。
努力が0%の式はない。努力をしなければ、夢を叶えるための100%には誰もたどりつけないんです。努力は夢をかなえるための切符なんです。
どんな天才であっても、努力をしている。そのことを思えば、「努力をやめる」という選択肢は、ないんです。(p.122)
本当にその通りだと思います。「はじめの一歩」の鴨川会長も「努力した者が全て報われるとは限らん。しかし、成功した者は皆すべからく努力しておる!!」と言っています。あとは、それをどれだけ実行できるかです。そこで実行できた人が、結果を出しているのです。
それでも、努力は報われない時があります。そんな時、高橋さんは次のように思っていたそうです
人一倍頑張っているのに、ぜんぜん報われない。そう思ってしまった時は、「足りない」と思うしかないんです。(p.122)
私も全く同じ考えです。結果が出なかった時、「努力が足りなかった」という前提で自分の行動を振り返ってみると、私の場合は、ここでもっと頑張っておけば良かった、と思う点がいくつか見つかってしまいます。結果が出ない時は努力が足りなかったんだ、という思いがあるので、自分の目指す結果にみあう努力をすれば結果は必ずでるということを信じることができるのだと思います。
一方で、人一倍努力してもどうしても報われなかった時、「自分はこれには向いてないんだ」という結論に至ってしまう時もあります。その時は、次のように思うそうです。
でも、その結論を出せたのは、努力したからです。
最初から正解を出すことなんて無理です。頑張った結果、「やっぱり違ったな」ってことが分かる。それって、やってみなきゃ分からなかったんですよね。
自分の適性を知るためにも、やっぱり、努力が必要なんです。(p.124)
少しだけやってみて、すぐに「自分は向いていない」と判断してしまう人がたくさんいます。私自身もそう思ってしまう時があります。最近は、特にそういう思ってしまうことが多くなってきました。これでもか!と努力してそれでもだめだった時になって初めて、本当の自分の適性が分かる、という考えは今までありませんでした。新たな視点です。そう考えると、何事に対しても、努力をしない、という選択肢は高橋さんのなかではないのだなぁと感じました。
「自分はカリスマ性を持っていない」という高橋さんですが、それでもAKB48という300人以上のチームをまとめるということは、リーダーの適性に必須な何らかの才能がなければできないことだと思います。この本を読んでいていくつか高橋さんの持つリーダーに必要な才能に気付きました。いくつかあるなかで、2つ挙げてみたいと思います。
たぶん、あの頃の私は自分を変えたかったんだと思います。10年経った今思うのは、私は「夢に向かって頑張る自分」が好きなんですよ。「頑張らない自分」は好きじゃない。(p.31)
1つ目は、「『夢に向かって頑張る自分』が好き」だということです。努力をしている過程を楽しめる、楽しめずともその過程自体が苦にならない、というのは大きな才能だと思います。私自身も、「頑張っている自分が好き」です。だからこそ、天性の才能がなくても、なんとかここまでやってこれました。この「『夢に向かって頑張る自分』が好き」は性格でもあります。性格はそう簡単に変わるわけではありません。だからこそ、この才能は、努力を続けるためにとても重要なことだと思います。そして、2つ目の才能は、次期総監督の横山由依さんについて書かれている部分にありました。2人に共通な部分だそうです。
確かに横山は後継者ですし、私と同じ仕事をやらなければいけないんですが、全部を全部教えようとは思わないんです。彼女には彼女なりのやり方を見つけてほしい。
ただ、根本的な部分で、私と彼女は似ているところがあります。努力し続けることを、諦めない気持ちです。(p.177)
「努力し続けることを、諦めない気持ち」です。トーマス・エジソンも「我々の最も大きな弱点は、諦めることにある。成功するための最も確かな方法は、常にもう一度だけ挑戦してみることだ。」と言っています。成功するまで努力すれば成功できるということを知っている人は、ものすごく強い人だと思います。
「『夢に向かって頑張る自分』が好き」だということ。
「努力し続けることを、諦めない気持ち」を持っていること。
この2つが、高橋さんの持つ大きな才能だと、私はこの本を読んで思いました。
ここから少しだけリーダーについても書いていきたいと思います。
私はとびきりかわいいわけでも、とびきり歌がうまいわけでもない。私ってこのグループにとってどんな存在なんだろう、どんなキャラクターの持ち主なんだろうと向き合い始めた。そんな時に、たまたま空いていたリーダーという枠に自分の居場所を見出したんです。(p.39)
「たまたま空いていたリーダーという枠に自分の居場所を見出した」。私が知っている人で、こういった理由でリーダーになった、と言っている人はほとんどいません。自分の強い意志があったから、頼まれたから、こういった理由が多いと思います。ただ、私自身はこういった理由でリーダーをやったことがあるかもしれません。今までの自分がリーダーをやった理由を考えてみると、人から認めてもらうため、という理由が一番多かったと思います。自分が認めてもらうための居場所として、リーダーに立候補したり、リーダーを引き受けたことが私は多かったです。逆に、ただの1メンバーとして自分が活動していると、自分の居場所がないなぁと感じることが多いです。自分がそこで必要とされていることを実感したいがために、僕はリーダーになっていることが多いのかもしれません。
そこで、勝手に責任感を感じて、試行錯誤しながらリーダーとして活動してきたからこそ、ここまで成長できたのだと思います。そして、高橋さんのすごいところは例えリーダーになった理由が何だとしても、リーダーとしての自分を磨き続け、実行し続けているところです。例を挙げてみます。
コミュニケーションの仕方も意識的に変えていきました。例えば、全体ではなく、その人に向けて挨拶をする。ひとりひとりに「おはようございます」と言いに行って、「おはよう、たかみな」という言葉をもらう。(p.37)
誰でもできるけど、誰もができるわけではない「挨拶」。その挨拶を工夫して、メンバー一人一人とコミュニケーションをはかっていく。こういったリーダーとしての行動を、高橋さんは自分で考えて、学んで、「意識的に」やっているのです。もとからできたわけではなく、ここでも努力をしてリーダーとしての行動をとっています。カリスマ性がなかったとしても、当たり前のことを当たり前に、意識してやり続けるということができるということは、リーダーの大切な要素だと思いました。
リーダー論、そして、努力論。
どちらも高橋さん自身の経験から得たことが言葉になっています。
例え天性の才能がなかったとしても、努力をすることを諦めなければ、結果は出るのだということを心の底から伝えてくれる、勇気の出る1冊です。
最後に。少し話は変わりますが…
今、AKB48のCD売り上げ枚数は100万枚を超えています。握手会のためにたくさんのCDを買っている方や、純粋にAKBの曲が好きでCDを買っている方が、AKBのファンの方にはたくさんいるからだと思います。そんなAKBのファンの方たちには、CDを買う時と同じような気持ちでこの本もぜひ買ってほしいなぁと思います。僕は握手会やライブはいったことがないので分からないのですが、握手会やライブに行くのと同じくらい、もしくはそれ以上に価値のある1冊です。ぜひ本を買って、読んでみて下さい。励まされます。